2014年12月16日火曜日

原油安の光と影

経済評論家ピーター・シフ12月15日付の記事で、原油価格の急落について皮肉を交えてこう書いている。
ここ数カ月で原油価格がなんと40%も下落したことで、世界経済の見通しは混乱し、地政学上の情勢は一変し、エネルギー産業に対する多くの投資は厳しい重圧にさらされた。経済学者は頭をかきむしりながら、判断に迷っている。原油の値下がりは経済にとって良いことなのか悪いことなのか。原油が安いと失業は増えるのか減るのか。デフレに「勝つ」("defeat" )ために世界各国がおこなっている努力を難しくするのかどうか。
多数派の説明によれば、原油価格が急落した大きな理由は、急増する供給と減少する需要との不釣り合いだという。しかしそれは事実に反するとシフは述べる。ここ数年、世界的にも、米国に絞っても、原油需要は減っていない。一方、供給は北米でこそシェールガス・ブームによって急増したものの、それ以外の世界ではほぼ横ばいである。北米が世界全体の供給を大きく押し上げるほどではない。実際、国際エネルギー機関(IEA)の推計によれば、2014年7〜9月で世界全体の需要は供給を0.6%とわずかながら上回っており、歴史的な供給過剰とはとてもいえない。

ほんとうの理由はなにか。第一に、相場の技術的要因があるとシフは指摘する。2014年に入るころ、景気回復にともなって原油価格が上昇するとの見方が多かった。原油先物取引で投機的な買い建てが急増したのはこのためだろう。買い建玉は7月ごろに400万枚と2010年の4倍近くに達した。多額の投機マネーが原油の値上がりに賭けていたので、わずかな値下がりで売りが広がり、本来の水準を大きく下回る値段まで売られた可能性がある。もしそうなら、ポジションの整理が終われば、原油は大きく値上がりするかもしれない。

第二に、ドル高である。原油は世界的にドル建てで取引されているので、わずかなドル高でも原油の値下がりに直接結びつく。シフによれば、ここ数カ月のドル高をもたらしたのは、米連邦準備銀行が2015年に引き締めに転じるという、根拠のない(unfounded)見通しである。実現しそうにないと市場参加者が気づけば、ドルは売られ、原油は値上がりするだろう。

しかしもし原油価格が安いままなら、これまでの米国での石油ブームは、連銀の金融緩和がもたらしたバブルだったことになる、とシフは指摘する。だとすれば、株式、不動産、債券の値上がりもバブルの可能性があり、それらは弾ける恐れがある。そうなっては大変だから、連銀は量的緩和(QE)第四弾に踏み切るだろうし、それは最終的には「第一、第二、第三弾を合わせたよりも大規模になるだろう」

デフレを恐れる経済学者とは異なり、原油の値下がりそのものは世界経済に好影響をもたらすとシフはみる。ただし国によって影響度は異なる。米国は原油の大生産国なので、受ける恩恵は他国に比べはるかに小さい。同じ大生産国でも、サウジアラビアは生産コストが低いので、原油安を乗りきれるだろう。

原油安の恩恵を最も受けるのは、原油をあまり生産しないが大量に消費するアジア諸国だろう。タイ、台湾、韓国、インド、中国、インドネシアなどである。インド、インドネシア、マレーシアなど多くの政府は原油安のおかげで、財政を圧迫する燃料補助金の削減に動いている(参考リンク「原油価格の下落で恩恵を受ける国・地域」「インドネシアが燃料補助金制度見直しへ、原油安受け」)。

シフは「明るい兆し(silver lining)には多少の雲がつきもの」と表現し、原油安の恩恵はバブルの破裂による痛みをともなう可能性があると指摘する。しかしその痛みは長引かないだろうという。最後に投資のヒントとして「エネルギー株は売られすぎであり、現在の株価なら長期で投資価値があるだろう」と述べている。

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