2015年5月3日日曜日

右も左も国家主義

「目糞鼻糞を笑う」という言葉があるが、経済論壇もご多分に漏れない。いや、経済問題の背後にあるイデオロギーの存在に自覚のない論者が多いだけに、己が欠点に気づかず他人の同じ欠点をあざ笑う滑稽な主張は、むしろ他の分野よりも大手を振ってまかり通っている。

たとえば経済評論家の上念司は、三橋貴明との共著『「日本経済ダメ論」のウソ』(イースト・プレス)でこう述べる。「いまの団塊の世代の連中の多くは昔、左翼運動をやっていたような連中ですから、もともと国営化が大好きです」。上念が右翼かどうか知らないが、自分も左翼と同じことを言っている自覚がないのは間違いない。なぜなら同じ本の中で、不況克服のため百兆円程度の「復興国債の日銀直接引受」をやれと強く主張しているからである。

日銀が国債を大量に引き受けることができるのは、日銀が事実上の国営銀行で、通貨を無からいくらでも作り出せるからである。上念は日本航空の実質国営化を左翼的発想とあざ笑うが、もしそうなら、「経済の血液」である通貨の発行を国家が独占することはそれ以上に左翼的なはずである。事実マルクスとエンゲルスは『共産党宣言』で、革命の方策の一つとして「国家資本および排他的独占をもつ国立銀行によって、信用を国家の手に集中する」ことを挙げている。

保守系メディアによく登場する経済学者の丹羽春喜は、国債の日銀直接引受を一歩進めた「政府貨幣」の発行を提言する。マルクスでさえ政府と中央銀行はいちおう別組織と考えていたのに、政府が直接通貨を発行せよというのだ。丹羽がインターネットで公開した文章によると、政府貨幣は国民に負担をかけず「数百兆円、数千兆円の発行も可能」な「打ち出の小槌」だそうである。

だが国民に負担をかけないというのは嘘である。上念も丹羽も、日本は物の生産能力が余っているから、どれだけ通貨を発行しようと物価高を招く心配はないと強調する。しかし物価高に至らなくても、発行量を増やせば、そうしなかった場合に比べ通貨の値打ちが落ちることに変わりはなく、国民が蓄えた預貯金の価値を損なう。土地や株のバブルももたらす。


米国大統領のジェファーソンやジャクソンは通貨発行独占の害悪を理解し、中央銀行制度に強く反対した。米国で中央銀行(連邦準備銀行)の設立が1913年と遅かった(日銀は1882年=明治15年)のは、反中央銀行の知的伝統が存在したためである。さすがに現在米国で中銀廃止論はごく少数派だが、そうした発想そのものが皆無に等しく、右も左も国家主義のイデオロギーに盲いた日本に比べれば、まだ健全といえる。
(2012年6月、某ミニコミ誌に寄稿)

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