2016年8月11日木曜日

内田樹『最終講義』



それは市場原理ではない

最近の政府は「民間ごっこ」が大好きだ。積み上がる財政赤字やお役所仕事に風当たりが強まり、それなら民間の真似をしてみようと形だけの「市場原理」を導入する。ところが一部の知識人はそれを本当の市場原理と勘違いし、批判する。

著者は大学教育を論じ、「数値化できない教育効果はゼロ査定する」と言い放つ「市場原理者」を非難する。彼らは「この教師たちはいったい競争的資金をいくら取ってきたのだ?」と問い詰め、東京都立大の人文系学部を潰したという。

しかしここで著者がいう「市場原理者」とは、いったい誰のことなのか。国公立大の学部を潰す権限は、民間人にはない。民間のコンサルタントなどが雇われて手伝ったにしても、最終決定をしたのは当然、文部科学省の役人のはずである。

政府がいくら民間企業のやり方を模倣しようと、本当の市場原理とは関係ない。企業の場合、短期の損得を優先して重要な部門を切り捨てれば、やがて市場競争で淘汰される。しかし役人は、目先の収支さえ改善できればそれで手柄になる。

大学が「市場のニーズ」に追随すると「日本中の学校が全部同じになる」と著者。だが画一的といわれるマクドナルドでさえ、地域でメニューが異なるし、外食産業全体ではさらに多様だ。画一性は市場原理でなく、官僚主義の特徴なのだ。

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