2016年8月27日土曜日

ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』(まんがで読破)


経済学の退歩

主人公ケインズは、自由放任主義を唱える古典派経済学を批判し、「大不況に打ち勝つ新しい理論を作る!」と大見得を切る。しかしケインズが提案する公共事業と金融緩和は、新しいどころか、大昔から権力者が好んだ悪政そのものだ。

古代ローマは国家の経済介入で滅びた。アッピア街道、コロセウム、公衆浴場などの遺跡は、人気取りを狙った公共工事の名残だ。増税が難しいと、皇帝は金貨・銀貨の質を落とし、差益(シニョリッジ)を懐に入れた。インフレ政策である。

古くから繰り返された政府の経済介入の誤りを明らかにしたのが、アダム・スミスらの古典派経済学である。ケインズは自説を「画期的」と自慢するが、本当に画期的なのは古典派経済学のほうで、ケインズは野蛮な先祖返りにすぎない。経済学の退歩である。

自由放任では失業者を救えないとケインズは憤る。だがケインズの時代、失業者が急増したのは、福祉国家にかじを切った英政府が過剰な失業保険を給付するなど労働市場への介入を強めたためだ。自由放任が問題ではなく、自由放任でないから問題だったのだ。

ケインズは政府が主体的に経済をコントロールせよと述べつつ、「全体主義は大キライ」と言う。しかしナチス支配下のドイツで出版された『一般理論』ドイツ語版の序文では、自説は「全体主義国の条件にずっと適合しやすい」と書いた。

マンガ版の絵はスタイリッシュで美しい。ケインズは傲慢なのに愛嬌があり、妻のリディアは聡明でチャーミングだ。夫婦愛に満ちたラストシーンもいい。しかし残念ながら、主要国に財政危機をもたらしたことをはじめ、『一般理論』が現在に至るまで経済・社会に及ぼした害悪を打ち消すことはできない。

0 件のコメント:

コメントを投稿