2016-09-30

内田樹他『脱グローバル論』


異様な国民国家礼賛

中心発言者の内田樹は、国民国家とは共同体のメンバーを「食わせる」ために設計されているという。だからこのままグローバル化が進行し、国民国家が解体されたら大変だと危機感を訴える。国民国家の危険な本性から目をそむけている。

日本で国民国家が成立した明治時代、首相に就任した日本陸軍の父、山県有朋は、「主権線」(国境)を守るだけでなく、「利益線」(周辺の勢力圏)の防衛が必要だと唱えた。この考えは、朝鮮半島や満州の侵略を正当化することになる。

同様に、ドイツのヒトラーは過剰人口を移住させる「生存圏」が必要だと主張し、東欧侵略を正当化した。山県にしろヒトラーにしろ、内田の言葉を借りれば、国民を「食わせる」ために対外進出が必要と説き、それが支持されたのである。

内田はこうした事実を知らないはずはないのに、国民国家の暗部に一言も触れない。そして自由貿易を盛んに攻撃する。貿易を制限すれば生産性が落ち、やがてかつての日独のように他国を侵略する恐れが強まることが理解できない。

内田は原発を批判する。しかし原発が乱立したのは、地方の住民を「食わせる」という大義名分の下、政府が補助金や規制で守ったからである。内田の嫌う市場原理が徹底していれば、経済合理性に反する原発はもっと早く淘汰されただろう。

国民国家は、自国民と他国民を差別し、他国侵略を正当化する危険を内包する。その差別意識は、欧州におけるユダヤ人のような自国内の異分子にも向かう。ユダヤ論を専門の一つとするはずの内田が、そうした危険をはらむ国民国家を手放しで礼賛するのはあまりにも不見識であり、異様である。

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