2016-10-30

コイル『GDP』

GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史
GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史

大きな政府のイデオロギー

GDP(国民総生産)の数字がわずかに増えたり減ったりするだけで、政治家や評論家は一喜一憂してみせる。あまり真に受けないほうがいい。本書を読めばわかるように、GDPは国民の経済的な豊かさを必ずしも示さないからである。

GDPは1920〜30年代の英米で生まれた。米国では経済学者クズネッツが政府の依頼を受け作成する(この業績によりのちにノーベル経済学賞を受賞)。大恐慌で国民所得が半減したという衝撃的な報告をまとめ、ルーズベルト政権が経済対策を推し進めるうえで大きな力となった(p.19)。

ただし、クズネッツと政府には意見の対立があった。クズネッツは国民の経済的な豊かさを測定するには軍事費を差し引くべきだと主張した。政府はこれに反対した。「政府の軍事支出が国の経済を縮小させてしまっては都合が悪いからだ」(p.20)

結局クズネッツは政治的争いに敗北し、政府が勝利した。クズネッツは政府のやり方を「政府支出が経済成長の数字を増大させることを同語反復的に認めているにすぎず、人々の豊かさが向上するかどうかは考慮されていない」(p.22)と批判した。

現在、GDPは軍事費に限らず、社会保障などあらゆる政府支出を価値あるものとみなして加算する。だから政府支出を増やせば、仕組み上、経済成長率は高まる。それは政治家には好都合でも、人々の経済的な豊かさを示すとは限らない。

著者はGDPを必ずしも否定するわけではない。それでも本書は、中立公正であるかのように見えるGDPが、実は大きな政府を肯定し、促進する政治イデオロギーと密接に結びついている事実に気づかせてくれる。

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