2016-12-01

リドレー『繁栄』

繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史
繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史

悲観主義を吹き飛ばせ

「経済成長はもう限界」「温暖化で未来は悲惨」――。近年、こんな暗い予測がもてはやされる。こうした悲観主義に対し、「合理的な楽観主義者」を自称する著者は異を唱える。人類の生活や環境の改善に限界はない。カギは「交換」だ。

著者は論じる。生殖によって異なる個体の遺伝子が組み合わさると、生物の進化は加速する。同様に、物の交換を通じて知識が融合すると、文化の成長は加速する。血縁者以外との交換は他の動物にはない習性で、人類を繁栄に導いてきた。

知識のすばらしさは無尽蔵であることだ。アイデアや発見、発明が枯渇することなど理論的にもありえないし、それらには無数の組み合わせがある。だからイノベーション(技術革新)には終わりがない。この事実が著者の楽観論を支える。

悲観主義者の2枚の「切り札」はアフリカと気候変動だ。しかし技術革新が明るい見通しをもたらす。ケニアでは総人口の4分の1が2000年以降に携帯電話を購入。農夫は作物が一番の高値で売れる市場を探し出し、暮らしが楽になったという。

かりに国連の予測どおり地球の気温が今世紀中に3℃上昇しても、むしろ環境にはプラスという。温暖な気候や降雨、二酸化炭素の濃度上昇により寒冷・乾燥地帯でも食糧の収穫が増える。新技術と相まって農地は最小限で済むようになる。

繁栄は権力者という捕食者・寄生者によって妨げられる恐れもある。しかしそれはせいぜい一時の挫折にとどまると著者はみる。人類の交換と専門化がこの地球のどこかで続く限り、文化は進化するからである。非合理なナショナリズムの空元気などとは無縁な、理性に裏づけられた希望を与える書だ。

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