2017年1月24日火曜日

林佳世子『オスマン帝国500年の平和』


商業が育む寛容

昨今、政治家が「共生」「寛容」「多様性」を大切にせよと説く。しかし大統領選を巡り国民がいがみ合う米国を見てもわかるように、政治は友と敵の対立関係だから寛容とは無縁だ。寛容を育むなら政治でなく、商業の自由があればいい。

オスマン帝国は多様な民族が共存したことで知られる。本書によれば、支配層には現在でいうトルコ人だけでなく、セルビア人、ギリシャ人、ブルガリア人、ボシュナク人、アルバニア人、マケドニア人、アラブ人、クルド人などがいた。

商工業者のギルド組合は、イスラム色の濃いものもあるが、イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒が混在する場合も多かった。ギルドの役割は競争を制限して既得権を守ることだが、実際には制限は徹底しておらず、競争が盛んだった。

地方政府は、自国業者を関税などで「保護」する現代の国民国家と違い、安くて品質のよい品であれば、町の外や外国からでも市場に入れることに抵抗しなかった。商工業者は厳しい競争にさらされ、各地で競争力のある手工業製品が育つ。

裕福になった人々は大規模な宗教寄進を行った。17世紀のサラエヴォでは寄進によって多数の学校、給水施設、水車、橋が運営された。「共生」の旗を振る政府の助けなどなしに、非イスラム教徒も住む町のインフラを整備したのである。

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