2017年2月13日月曜日

西嶋定生『秦漢帝国』



コスト無視の国防

防衛を政府が独占する弊害の一つは、コスト観念の欠如である。民間企業や個人であれば、いくら安全が大切でも、過大な金額を警備に注ぎ込まない。他の幸福が犠牲になるからだ。しかし、政府はしばしば国民に過大な負担を押しつける。

本書が述べるように、漢帝国は武帝の時代、戦争を繰り返した。最大の目的は侵入する匈奴への対抗で、やむをえない面はある。問題はコストだ。先代までに蓄えた豊富な国家財政を使い果たすが、歯止めはかからず、新しい財源を求める(p.201)。

財源確保のため実施したのは、増税、塩鉄専売、商品運搬の官営化など。農業を本、商工業を末とする思想に基づき、商工業者を増税の標的とした。脱税の告発に報奨金を与えて奨励した結果、中産者以上の商人はほとんど破産したという(p.251)。

塩鉄専売も、製鉄業や製塩業を営んでいた地方の豪族や大商人に打撃となる。増税や専売の実施後、社会不安が顕著になった。各地方で盗賊が城邑を攻め、兵器を奪い、地方官を殺す。政府は数千・数万を斬殺するが、鎮圧しきれなかった(p.267)。

武帝は晩年、外征で国力を疲弊させたことを後悔し、民力の回復を願い、辺境の開発を中止する(p.283)。コストを無視した国防で、守るべき国を衰微させたのだ。皮肉にもその後、侵入した異民族が建てた北魏・隋・唐王朝で中国は大いに栄える。

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