2017年7月16日日曜日

ファシズム再評価の愚

元外交官で評論家の佐藤優が著書『世界史の極意』(NHK出版新書)で、国家が市場経済に積極介入するファシズムを再評価し、日本の政策に取り入れよと提言している。しかしそのような試みはすでに八十年以上前にあり、無残に失敗している。

1920年代にイタリアのムッソリーニが展開したファシズムは、失業、貧困、格差などの社会問題を、国家が社会に介入することによって解決することを提唱した。ドイツのナチズムはデタラメな人種神話にもとづくものだが、ファシズムは違うと佐藤は擁護する。

日本もこのような「言葉の正しい意味でのファシズム」を取り入れよと佐藤は主張する。そうなれば「経済的には再分配をおこない、健康で文化的な生活、今後の技術発展に対応できる職業教育、家族を持ち子供を育て、次世代の労働者を育成することができる所得を国民に保証する」ことになるとほめそやす。

さて佐藤は書いていないが、すでにムッソリーニの同時代、ファシズムを模倣する試みは世界であった。その一つは大恐慌当時の1930年代米国でフランクリン・ローズヴェルト大統領が行った、ニューディール政策である。

歴史の教科書では、第二次世界大戦において米国は民主主義陣営、イタリアは全体主義陣営に属する不倶戴天の敵とされる。しかし少なくとも経済政策に関しては、両者の本質は同じものだった。

ジャーナリストのジョン・フリンはムッソリーニの政策を分析し、「反資本主義だが、資本主義の特徴を持つ」「経済的な需要の管理」「国家予算の赤字」「計画経済を命令し、コーポラティズム(協調主義)を通じて部分的な経済的自治を調整する」「法の支配の一時停止」といった特徴を抽出した。そしてこれらの特徴はニューディールにも共通すると指摘し、こう断じた。「これはファシズムである」

事実、ローズヴェルト政権の高官にはムッソリーニの心酔者が少なくなかった。ローズヴェルト自身もムッソリーニについてこう語っている。「彼の業績にたいへん関心があり、深く感銘を受けている」

一方、ムッソリーニもローズヴェルトを高く評価した。1933年、ローズヴェルトによって全国産業復興法が成立し、国民経済の大部分で大統領の絶対権力が与えられたことを知ると、こう叫んだという。「独裁者を見よ」

俗説と異なり、ニューディール政策は不況脱出に成功せず、むしろ大恐慌をもたらした。ファシズム模倣の試みは見事に失敗したのである。その事実を知ってか知らずか、今頃ファシズムを再評価してみせる佐藤は、とても「世界史の極意」を会得しているとは思えない。

(2015年4月、某ミニコミ紙に寄稿)

1 件のコメント:

  1. 「法の支配の一時停止」といえば、ニューディール政策への連邦最高裁の数々の違憲判決に対して、フランクリン・ローズヴェルト大統領が計画した、コート・パッキング・プランも同じ匂いがしますね。これは、当時でさえ司法権への過度な介入といわれました。

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