2017年7月23日日曜日

情報機関を信じるな

政府・自民党内で「日本版CIA」新設の機運が高まっている。海外での日本人の誘拐や殺害といった被害を防ぐには、米中央情報局(CIA)のような専門の情報機関が必要との考えかららしい。しかし情報機関が政府の官僚組織であるかぎり、他のお役所仕事と同様、ろくな働きは期待できない。 

先日死去した直木賞作家、船戸与一は海外を舞台とする多くのスパイ小説で、理想化されがちな情報機関の堕落した現実を描いた。昭和54年(1979年)の処女作『非合法員』(小学館文庫)では、元CIA情報員の老いた米国人がこう語る。 

「いいか、組織なんかを絶対に信用するんじゃない!……どんなことがあっても国家や組織なんかを信用しちゃあならん! これほど簡単に人間を裏切るものは他にないんだからな」 

「組織の中でも、とくに情報機関はとことん疑ってかかる必要がある! たいそうな目的を掲げてるくせに、やることなすことと言ったら組織の維持だけだ」 

「CIAと国防総省、それにFBI〔連邦捜査局〕の関係を見てみろ! いつもじぶんの組織の利益ばかり考えて反目しあってる!」 

CIAといえどもしょせんは役所である。画一主義、先例踏襲、独善性、派閥意識、縄張り根性といった官僚組織の弊害から逃れることはできない。老スパイの吐き出すような言葉はその事実を生々しく伝えている。 

これは小説の世界だけの作りごとではない。ニューヨーク・タイムズ記者ティム・ワイナーはノンフィクション『CIA秘録』(文春文庫)で、CIAを蝕む官僚主義を剔抉している。 

設立まもない1950年代、CIA内部にはアルコール依存症や金銭の絡む不正行為がはびこり、大量の人員が辞職した。この時期、長官アレン・ダレスに報告された内部調査で、ある若い職員はこう証言したという。 

「おおむね非効率で非常に金がかかった。……本部や現場の仕事と権威を守るために、控えめに言っても、大げさに立場を主張して、活動の予算と計画の正当性を取り繕うことが本部の任務になっている」 

CIAの官僚主義はその後も改まらない。2003年のイラク戦争では、イラクが大量破壊兵器を90%程度の確実性で保有していると判断する「重大な間違い」を犯す。その後の調査によれば、「意思疎通がひどく欠けていたので、しばしば右手の仲間がやっていることを左手の仲間が知らなかった」。 

鉄道、電力、宅配といった事業で日本政府が劣悪・割高なサービスしか提供できなかったことはすでに証明されている。国民の安全をはるかに大きく左右する情報活動にかぎって政府を信じる気には、とてもならない。 

(2015年5月、某ミニコミ紙に寄稿)

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