2016-07-18

佐藤優・宮家邦彦『世界史の大転換』



「インテリジェンス」のお粗末

国家主義に盲いた元外務官僚の対談。難民を生んだのは、日本も協力した米欧の中東軍事介入。だがイラク戦争後に連合国暫定当局日本代表としてバグダッドに赴任したという宮家邦彦も、佐藤優も、国家の責任を問わない。

佐藤は「不法な難民を送り出す業者と、密航を請け負う業者が商売をしている」とさも悪事のように話す。「業者」が助けなければ、待つのは虐待や死だ。国家が不幸にした人々を救う民間人に、元公僕として感謝すべきである。

難民は「ヒトの『移動の自由』というポストモダン的なグローバリゼーションが進まなければ、起こりえなかった現象」と宮家。第一次世界大戦時に欧州で各国がパスポートを導入し規制を強めるまで、人の移動は原則自由だったことを忘れている。

宮家は「近代の国民国家は、教育や社会福祉、生活インフラを整備し…国力を増大させてきた」と国家を称える。しかし、たとえば日本の電力や鉄道産業はもともと私企業として発展し、戦争を機に国有化されたにすぎない。国家はむしろ、国鉄の累積赤字や原発乱立などの問題を引き起こした。

佐藤は「貧困層が増えて個人がバラバラになると…生活不安の矛先が国家に向かい、国家(官僚)の徴税に支障をきたす」と新自由主義の弊害なるものを心配してみせる。貧困層が増えるのは、国家が経済に介入して自由な生産活動を妨げるからである。徴税に支障をきたすとしたら、自業自得である。

諸問題の元凶は国家であるのに、元官僚の2人は意識的にか無意識的にか、それを認めたくないようだ。これではどれだけ情報を集めようと、正しい対策は講じられない。国家に仕え、権力者を喜ばせる習性の染みついた「インテリジェンス」とは、この程度のお粗末なものだ。

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