2016-11-17

伊東ひとみ『キラキラネームの大研究』

キラキラネームの大研究(新潮新書)
キラキラネームの大研究(新潮新書)

国語政策が壊した日本語

漢字のわかりにくい読み方を用いた「キラキラネーム」は日本語を壊す、という批判がある。しかし著者が指摘するとおり、それは因果関係を取り違えている。日本語の漢字の体系が壊れかけているから、キラキラネームが増殖するのだ。

日本語はやまとことばを中国からの輸入品である漢字で表記する。だから無理な読み方は日本語の宿命でもある。堂々たる正統派の名前である「和子」の「和」を「かず」と読むのも実は無理読みで、江戸時代に本居宣長が嘆いたという。

奇抜な名でも、漢籍の教養が生きていた時代には、漢字の意味はおろそかにされなかった。森鴎外の長男の名「於菟(おと)」は「オットー」というドイツ人風の響きに目が向きがちだが、実は中国の古典『春秋左氏伝』に由来するという。

漢字の体系を崩したのは、明治以来の国語政策だ。とくに戦後、「佛」は「仏」に略されたが、同じ部首の「沸」はそのまま。「訣別」は「決別」としたのに、「秘訣」を「秘決」と書くのはダメ。一時は「お母さん」が認められなかった。

今やパソコンの普及で漢字の整理も使用制限も無意味になった。キラキラネームを行政が規制せよとの声もあるが、著者は現状が「公的権力の介入の結果」だと指摘し、規制に反対する。言葉に必要なのは、自由な使用を通じた進化である。

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